2015/05/08

リンゴひとつ

寒さ厳しい山国。
たくましく生きる一本の木に今年もなった、リンゴの実。


©123RF

リンゴの望みって、何だろう。
銀座の千疋屋さんとか、
新宿の高野フルーツパーラーとか、
世間で名の通ったお店の店頭を飾ることなのか。
あまりの高値に、誰からも求められることなく
ひっそりと処分される運命を辿るかもしれないというのに。


それはリンゴの本意なのか。


登山遠足に行った小学生。
弁当と一緒に、母が持たせたタッパー入りの皮むきリンゴ。
「おいしい!」と、むさぼるその笑顔には
一点の嘘も翳りも無い。


気の合ったパート仲間が昼食を囲んで、ほっと一息つく時間。
「田舎から送ってきたの〜」と、みんなでシェアするリンゴに
「おいしいね!」「甘い!」と
笑顔、こぼれて。


「初めて作ったんだけど...。」
と、中学生のお姉ちゃんが恐る恐る炊飯器から
取り出してきた、簡単レシピのアップルケーキ。
「これは絶品!」
「店でも売れる!」
口々にはやし立てる家族の横で、
はずかしそうに、でも誇らしげに笑うお姉ちゃん。


どちらのリンゴが幸せだろう。
代われるものなら、どちらのリンゴとして生きてみようか。


©123RF

天から授かった命の種を
その小さな身体で大切に守りながら
はるばるここまでやって来た、愛すべき赤い果実。





縁あって巡り会えた人から思わず飛び出る
「おいしい!」のひとこと。
自然とあふれる、屈託の無い笑い顔。
リンゴにとっては、それが何よりのご褒美だ。



有名店の棚の目立つところに置かれたり
よそ行き用の高値を付けられたり。
上辺だけのご挨拶代わりに贈られるフルーツ詰め合わせの脇役になり
そのまま忘れ去られたり。



君。
真似してみたいのかい。
そんな俗世の価値観に、まだ未練があるのかい。
まだわからないの?
アンポンタンなんだから、もう・・・。




リンゴに問われて、はっと目が覚めた。




まったくなぁ。
なぜ今まで気付かなかったんだろう。
こんなに簡単なことなのに。