2017/01/26

【閑話】人はみな、それぞれの物語を背負って今ここに。【休題】

Facebookで禅についての話をしていた時、ふとこのセリフを思い出した。
もう9年前になるのかあ。




「あなたと違うんです!」

誰もが密かに心の中で一度や二度はつぶやいたことのある一言を、つい、ポロッとマイクの前で出してしまった福田元首相。
記者団の質問についカチンと来て、うっかり本音が漏れたのだろう。


みんな、当時はさかんにこれを笑い、呆れた口調で語っていたけど、実は「他人事じゃないな。場合が場合なら、自分だってやりかねない。」という複雑な思いで見ていた人も多いのではないかな。
少なくとも、私はそうだった。
あの手のゴーマンかましちゃいました発言、脳内では昔から今の今に至るまで結構頻繁にやっているように思う。
ただ、口に出して人前では言わないだけだ。罪深さは同じである。


「覚醒」

「マスターからの瞑想伝授」


「チャネリング能力が花開く」

といった甘い言葉に釣られて、不当に高い金をぽんぽん払っちゃうような消費者が後で泣くのは、ある程度仕方ないこと。自業自得だ。
今回だけは授業料だと思って諦め、次はもうちょっと考えてから、必要とあらば信頼できる人の意見を聞いてから、事を起こすようにすればいい。
(金が余って余って使い道に困る?だったら、ご自由にどうぞ~。)



でも、何でそういうビジネスに引っ掛かるか、と考えたら、全ての根っこにはこの


「あなたと違うんです」

を外の世界にアピールしてくれるような《何か》



を求めずにはいられない、という人間のしぶとい欲望があるせいだ、思う。



みんな、人より頭ひとつ分出たくって、自分のことを差別化したくってたまらないのだ。


それは、最近流行りの言葉を使うと、「マウンティング mounting」せずにはいられない、という欲望にも簡単につながる。
見栄っ張りの女性集団、例えばちょっと競争心の強い幼稚園ママ友グループなんかではしょっちゅう見られる光景らしい。
おお、こわ。


【参考記事: 
日経WOMAN「女性同士のイヤな感じ、正体は「マウンティング」 】


この「あなたと違うんです」とつい言っちゃう/思っちゃう、本能的な衝動。



どうやったら、コントロールできるんだろう。
どうやったら、湧き上がらないようにできるんだろう。
どうやったら、「他人と比較する」ことをやめられるんだろう...。



しばし考えて、今、ヒントらしきものがふと浮かんだ。



車なんて基本的にちゃんと動いて、燃費が良くて、目的地まで安全に行って帰って来れれば100点満点。そう私は考えている。
今乗っているのは、8年前に買った日産の小型ハッチバックで、まさに100点満点の車。だから、買い換える予定なんて無い。最後の最後まで大切にするつもり。



車へのこだわりなんてゼロ、の人間だから、誰がベンツに乗ろうが、BMWに乗ろうが、革張りシートの最上級グレードの車に乗ろうが、
「ああ、車が好きで、そこにお金をかけたい人なんだな。」
って思うだけ。
値段なんてぜ~んぜん気にならない。というか、よくわからない(笑)。
これまでの数少ない経験から、高級車のシートは確かに乗り心地抜群、と知っている。長時間ドライブをよくする人だったら、身体への負担を考え、たとえ多少高価であってもどうしても上位車種が欲しい、と考えるのも理解できる。



あるいは、その人か、その人のパートナーがその特定の車種に若い頃からずっと憧れていたのかも。
今、ようやく金銭的にも余裕が出るようになり、遂に購入へと踏み切ったのかもしれない。めでたく夢をかなえたわけだ。
勝ち組と見られたいから、ベンツに乗る...なんて薄っぺらい人ばかりじゃないのだよ、世の中は。


それなりの理由があるから、
今こうなっている。


一つ一つの選択の背後には、
その人だけが知る、
その人なりの理由がちゃんとある。



そう。この、「選択ノ背後ニ理由アリ」という部分に思いを馳せるだけの想像力を奮い起こすことが、今、私たちに強く求められているんだと思う。



表面に出ている現象だけを見て、

「なにあの人、金持ちぶっちゃって。」
「だんなさんが医者だからって鼻にかけてんじゃないわよ。」
「○○大学出たのに、その程度の会社に勤めてるの?」
「(タワーマンションの)2階? 安いからそこしか買えなかったんでしょ?」


と言い放ってしまう人の内側では、次のような流れが起こっているはず。

「人と自分との浅薄な比較

--->気に食わない『異物』、発見

--->脊髄反射 
(何も考えない。本能だけでガバッと動く。)

--->「あぁ、ムカつく!」「凹ませてやりたい!」


脊髄反射とは、本能そのまま、原始動物時代から受け継がれてきた部分が丸出しといった感じでとっさに出てしまう反応のこと。
高度に発達した生き物(人間のような。)にのみ与えられたすばらしい才能である「想像力」と共存共栄させていくのは、なかなか難しいかもしれない。
どちらか一方に偏らねばならないのだったら、より洗練され、より有益なはたらきだと誰もが認める【想像力】を選ぶべき。
本能そのままに敵意むき出しな生き方をしていては、心安らぐ人間関係なんて築けるわけがないのだから、いつか必ず行き詰まる。


上に挙げたような一連の脊髄反射のパターンが対人関係の中ですぐに出てきちゃうような人々、あなたの周囲にいないだろうか。
もし、思い当たる誰かがいるのなら、その人(たち)からは勇気をもって距離を置くようにした方がいいだろうね。
時間も、エネルギーも、その人(たち)には知らず知らずのうちに随分と吸い取られているはずだから。


一人になるのは怖い。
その気持ちはよくわかる。(かつての私自身がそうだった。)
でも、時間泥棒・エネルギー泥棒同然の人達から離れることができれば、自分ひとりで過ごす時間という素晴らしいごほうびが手に入るのだ。
その時間を使って、「これがあるから生きていける」「これがあれば幸せ!」と言えるような興味・関心事、もしくは打ち込める仕事を探せばいいじゃないか。
その方が、どれだけ身も心も豊かな気持ちになれるかわからない。


長いようで短い人生。
どうせ一緒に過ごすなら、「良い人でありたい。今日はイマイチでも、明日こそは良くなりたい。」との心掛けで生きている人と過ごした方が、得られる喜びが大きいのだから。
もし、今その場所で、そのような人が見当たらないのであれば、「まぁいいさ。縁があればそのうち出会うだろう。」とどっかり構えて、そして一人でなきゃできない何かに打ち込めばいい。
本、音楽、映画、美術、工芸、写真、釣り、スポーツ、ヨガ、山歩き、寺社巡り、下町散策...など、一人で自由に動き回れるからこそ楽しめる何かを探しに行こう。
他人がいても、いなくても、自力で幸せの種を見つけられる人になろう。


ひとつの集団がどっぷりと浸かっている無意識の悪癖は、薬物中毒にどこか似ている。
自分一人が「よし、手を切るぞ。二度とやるもんか。」と頑張ったところで、また「ね~、行っちゃうのぉ~?もうちょっと一緒にいようよ~。」と後ろから引き留められると、つい、ズルズルと付き合ってしまうからね。なかなか断ち切るのが大変。
朱に交われば赤くなる。昔の中国の人はうまいこと言ったもんだ。


「あいつ、気に食わない」となったら、たちまち悪口大会が始まり、その人のことを「共通の敵」へと仕立て上げて、自分たちは「共犯者」としての結束を固める...。
そんなことに時間も、エネルギーも費やして、面白い?
そんな話ばっかりして、幸せ?
モヤモヤするばかりの人間関係なんて、切っちゃえ。スルッと逃げちゃえ。
(悪口は、お口もお顔も心も歪みます♪しかも年取ったら直したくってももう直りません!)


もし、そういった「仲間」と距離を置いた後も、自分ひとりでいて、誰かの行動を見た瞬間に心がざわざわっと騒ぎ、即、脊髄反射だっ!って流れに飲み込まれそうになったら、まさにチャンス到来、だ。
自分を鍛えて、よりまっとうになるための絶好のトレーニングの機会がやって来た、ととらえればいい。


で、

「目の前にいる人のこの行動も、
それなりの理由があってしたこと。
背後には何らかの物語が、ある。
表に見えている材料だけで、即、決め付けないにしよう。」


と、言い聞かせるといいよね。何度も、何度も、繰り返して。


「どんな人の背後にも、物語がある。
なぜその人が今あんな風なのかにも、理由がある。
誰かをこき下ろしたくなったら、そのことを考えてごらん。」



そういう訓練を人知れず繰り返すように努める人が一人でも、二人でも増えていけば、私たちが生きる社会も少しずつ変わっていくかもしれない。



...まぁ、それが簡単に出来るようなら、世の中っはとっくの昔にもっと平和になっているはずだけどさ。
(そもそも私自身が全然できてないもの。
だから、こうして文章に記すことで自分に暗示をかけているのだ。「もうやるなよ!」って自戒の念で書いてるんですよ。)



私のエニアグラムの師匠である故ドン・リソ(ドン・リチャード・リソ)先生が、来日された時、教え子にアドバイスを求められ、こうおっしゃったそうだ。



【反応(reaction)】に気を付けなさい。


【過去記事:ドン・リソさんの夢〜「置かれた場所で咲きます」宣言 】
http://backtotheessencenow.blogspot.com/2016/08/blog-post.html 


...何も考えずにバババッ!と口から出してしまう、或いは心の中でつぶやいてしまう脊髄反射的なひとこと。
これでもって人生を狂わせてしまわないよう、気をつけなければ。


とっても難しいことなんだけどね...。何度も言うけど。


心と頭をクールダウンして、まっとうな思考の働きを活発に保っておきたいのなら、やはり瞑想、坐禅のような身体を巻き込んでの訓練を日頃から地道にやっていくしかないんだろうな。

The・禅―ダルマは世界を駆ける
原田 雪渓
柏樹社
売り上げランキング: 688,700

せっかく詳しい方に推薦していただいたのに、中古本のお値段がた、高い...。復刊されないかなあ。


ヨガの後にやる瞑想だと、どうも自己流に陥ってしまっていけない。

妙なスピリチュアル・ファンタジー系(内容ですか?まぁ、その、スピリットガイドとか、ハイヤーセルフとか、守護天使とか、そっち系統ですよ。あぁ言っちまったよ。恥ずかし~。)に走ってしまいがちで、こんなんでは非常にまずいと思い始めている。
何とかならないかなあ。
変な癖、無くしたいんだけど、一人ではなかなか...。


アメリカ人のやってる禅センターも近くにあることはあるんだけど、うーん、何だかなぁ、って感じ。
(当地の禅センターには日本人のお坊さんは常駐していない。サンフランシスコのような大都市じゃないからね。)

あんなに豊かな漢字の世界、シンプルだけど実に味わい深い仏教用語の世界を知っている日本人が、わざわざ英単語で禅を説明される、ということに物凄く抵抗がある。

Satori(サットォーリィ←"r"の音が効いた発音で。)なんて言葉を耳にするの、やだもん。
(だったら、インドから来たヨガを白人系アメリカ人の先生に教わっていることについてはどう説明するんだ。←自分でツッコミ入れてみる。)


去年は時間が無くて諦めたけど、次に日本に帰った時は、必ずどこかの坐禅会に行くぞ!
(継続して行ければベストなのだが、海外在住者ではそりゃ無理というものだ。)


臨済宗・黄檗宗の坐禅会情報:
http://www.rinnou.net/cont_02/zen_info.html


曹洞宗の坐禅会情報:
http://www.sotozen-net.or.jp/searchsystem_zazen


憧れの方・P.A.様も、数年前の長期休養中には京都の禅寺で坐禅なさったんですものね。新作、今からとっても楽しみです。


FANTAISIES(CD+DVD)
FANTAISIES(CD+DVD)
posted with amazlet at 17.01.26
PIOTR ANDERSZEWSKI
WARNER CLASSICS (2017-02-17)
売り上げランキング: 13,672

新作、遂に2月17日発売です。予約受付中!
モーツァルトとシューマンの「ファンタジア(幻想曲)」集。
シューマンの方はシーモアさんが映画のラストで弾いた、あの第三番も入っています。

...それにしても、なんと素敵なお姿なのでしょう...。(*゚∀゚)=3ハァハァ.

(もし、坐禅会に行って、こういう方が隣にいらっしゃたら、もう、鼻血ブー・心臓バコバコ状態で、とても坐禅どころじゃなくなると思うな~。警策...きょうさく...でひっきりなしにビシッ!バシッ!と打ってもらわないことには、1時間持たないかもしれない...。  
これから先、いつかどこかでP.A.様にお目にかかれる機会に恵まれるのであれば、坐禅道場やヨガの教室以外の場所がいいかなー。 ←この不届者。一体何を期待してやがる。

※ちなみに、私が2015年の夏に参加した曹洞宗大本山・總持寺の坐禅会では、「手を上げて合図した希望者のみビシッ!」でしたよ。 なので、怖がり屋さんでも安心して参加できます。
持寺HP 参禅のご案内http://sojiji.jp/zenen/sanpai/sanzenkai.html 


福田さんの「あなたとは違うんです」を何度も聞いていたら、なぜか突然このヴィンテージなCMを思い出してしまった。
ああ、昭和。





福田さん、あの突然の辞任会見以降、ほとんど政治の表舞台に出られなくなってしまったような気がする。今思うに、「あなたと違うんです」のあの一言って、このCMの「コレ(小指)」級の破壊力があったな。後世に残る名ぜりふだった。

2017/01/23

(5時間目の昼寝常習犯)師岡さんと、大人のための古文【再】入門 その参

ということでようやく始めた、今回の『古文【再】入門」プロジェクト。
スタートから1年少々経つが、その過程においては実にいろいろな教材をつまみ食いしてきた。
「金はかけずに!」がモットーなので、できるだけ中古本やネット上の無料教材を中心にしての低予算でやってきたつもりだ。
自分が高校時代に買い集めた(ものの、結局消化不良のままに終わった)参考書・問題集も、日本の実家から持ってきた。
たとえば、こんなところ。


古文の読解 (ちくま学芸文庫)
小西 甚一
筑摩書房
売り上げランキング: 12,330


古文研究法 (ちくま学芸文庫)
小西 甚一
筑摩書房
売り上げランキング: 23,765

いずれも、学生時代に私がお世話になったのは旧版の方である。
(上の本は元々旺文社、下の本は今は亡き洛陽社という会社から出ていた。)


【お知らせ:G+の別アカウントで細々とコレクションやってます。 
「愛しき大学受験参考書たち」 https://plus.google.com/collection/YFdMJB 】


だが、今回改めて小西先生の名著2冊を取り寄せて問題を一つ二つ解いていくうちに、またしても大きな壁にぶち当たってしまう。
この2冊を【古文参考書の最高峰】と呼ぶことについては、全く異論はない。
「実力とやる気がある」(←これ大事)人にとっては、宝の山のような価値を秘めた、非常に優れた教養書だと思う。一生付き合っていける。
実際、アマゾンのレビューでも多くの人がそのように言っている。




ただ、この小西先生シリーズに掲載されている過去の入試問題、今の私にとってはあまりにも難しすぎるのだ。
問題の要求度が高過ぎる。(昔の入試レベルはすごかったんだなー。)
比較文学者として数多くの業績を残した本物の研究者・小西甚一先生がどれほど言葉を選んでフレンドリーに解説してくださっても、私自身の持てる知識が小西先生の予想をはるかに下回る程にお粗末なのだから、仕方がない。
設問部分になると「ひえーーーっ!」「ぎょえーーーっ!」とパニックに陥ってしまう。
情けないが、こんな調子ではとても「学習」とは呼べない。
ただの肝試し体験だ。


もっともっとゆー...っくりとした速度で、まるで「幼子の手を引くように」、基礎中の基礎からやさ~しく、懇切丁寧に教えてくれるような教材を探さないといけない。
でないと、この先ちょっとしたきっかけで行き詰った時、
「あーあ。やっぱりダメだったか。」
と、あっさりと諦めてしまいかねないから、だ。
あの苦い敗北感を再度味わいたくないなら、そして「敗者復活!」の喜びを手にしたいのなら、今回は何としてでも一定レベルに到達するまでは学習を続けていかねばならない。
それも、初歩から上級まで、ちゃんと順序だてて、丁寧に一歩一歩進むようにしないと。
二度目の討ち死にだけはご免こうむりたいからね。



そこで私が目を付けたのが、昭和時代には存在すらしていなかった

【投稿動画】

というメディアだった。
要するに、YouTubeや、ニコニコ生動画のこと。
これ、導入期には学習のペースメーカーとして大変役に立ったので、ぜひ紹介しておきたいと思う。


それ以前は大して古文に興味が無かったので全然知らなかったのだが、実はYouTube上には現役の先生方、予備校講師の方々による古典文法の講義や解説動画が数多くアップされている。
唯一の欠点は、「いつまでもそこにあるとは思うなよ。」という、素人動画につきものの不安定さ、であろう。
現に、私が1年前にお世話になって、今回ぜひ紹介したかった動画の中にも、既に削除されたものがたくさんあった。
色々なご事情があってのことだろうが、一学習者としては残念無念、としか言いようがない。

【某私立高校国語科教諭で、元・河合塾講師(とプロフィール欄には書いてあった気がする)の空井和知先生。その節は面白くてためになる解説動画とHPでの情報、本当にありがとうございました!!!  
先生のHP: 国語マテリアル研究所 http://kokuken.blogspot.jp/ 】


現在(2017年1月時点)残っているもので、「古文【再】入門」組へのおススメ動画チャンネルをいくつか挙げるならば...


超・入門者向けの内容が涙出るほどうれしい、古文’s room/まさやんさんの文法解説シリーズ。


古文's room  http://kobunsroom.com/
YouTubeチャンネル・ホーム (「動画」のタブをクリックすると各々の授業ビデオへと行けます。全部で12回分あります。)
https://www.youtube.com/channel/UCdaSP4LuQR7Wpf0-ZI67m8w/featured 
 

無料動画では、助動詞のごく基本的なところまでしかカバーしていない。
そこから後は、別の教材を探してきて補えばいいだろう。
ゼロからスタートしたい人、激しく自信を失っている人にはぜひ試していただきたい。


品詞の名前?怪しいな~。
そういえば、連体詞って、何だっけ?
「ず」って、「否定」の助動詞?(←「打消」が正しい。私は高校の定期テストで堂々とこう書いて見事×を食らった。)


...なんて臆面も無く言えちゃう程の超・初級者だったら、多分「おぉ!これはま・さ・に自分にぴったりのレベル!」と安心してついていくことができるんじゃないかな。
...約1年前の私は、そのどん底レベルから始めなければならなかった。
だから、作者のまさやんさんの兄貴っぽい優しい語り口には本当に励ましてもらった。
で、何とか次の段階へとつなげていくことができた。
まさやんさん、ありがとう。



お次は、落ち着いた大人風の語りが心地良い、瓢箪堂Hyoutandoさんという方のチャンネル。
YouTubeにありがちな、妙にテンションが高い、若い子向けの動画とは正反対の、無駄を削ぎ落したすっきり感のある授業が特徴。年長の学習者には特におすすめだ。
恐らく、普段から古文を専門として教えていらっしゃるプロの先生なのだろう。

瓢箪堂国語通信 http://hyoutando.blogspot.com/

こちらも文法解説が中心。
上の古文’s roomで扱う内容が入門+超・初級~初級編だとしたら、瓢箪堂さんの授業は少しだけ上の、初級~中級、という位置付け、か。
特に、中級以上の学習者にとってはいくらやってもやり過ぎということは無い、各種の文法識別問題を取り上げてくれているので、復習用にぴったりだ。
実力が上がったら、ぜひセンター試験の過去問にも挑戦しよう。


識別。敬語。大事よ~。
でも、まずそこに行くまでは基本、基本、とにかく基本。繰り返しあるのみ!


あと、大事なトピックに絞って解説してくれている真珠書院の「高校生ちゃんねる」。
こちらの動画も大いに参考にさせてもらった。


神奈川県トップクラスの進学校・私立浅野中学・高校の小林先生が
すっきりさわやかに解説してくれている。

上で紹介した以外にも、古典文法についての講義を扱うYouTuberは、有名・無名含めて数多く存在している。
だが、動詞から助詞に至るまで、つまり、古典文法の重要事項をくまなく網羅し、初級から上級まで少しずつレベルアップしながら順序立てて解説してくれている人となると...うーむ。
残念ながら、あまり好みのタイプの先生には巡り会えなかった。


個人的に、若い女の先生の授業が苦手だ。
昔、塾で拙い授業をやっては「先生」なんて呼ばれていた経験があるもんで、若くて未熟だった頃の自分の姿と、動画の中のお嬢さん先生とをどうしても重ね合わせてしまうのだ。心がざわついてしまい、どうしても内容に没入できない。
元気いっぱいに張り上げる、女性のキンキン声でもって説明されると、その必死さ加減ばかりが画面越しに伝わってきて、こちらがどっと疲れちゃう。



となると、そろそろ市販の教材にも目を向けるべきかな、という結論へと自然にたどり着く。
値段が付いてりゃいい、ってもんでもないけれど(商品化されていたって駄作は駄作。駄本は駄本。)、「無料」「安上がり」に頑なにこだわっていては絶対に手に入らないものが、世の中には確実に存在する。



ここぞ!という時には、思い切って投資しなければいけないのだ。
(大げさ...。)



リサーチした結果、こちらの「古典文法講義の実況中継」(語学春秋社)のシリーズはどうやら避けて通れない...いや、通らない方が良い、ということがわかった。
用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用に始まり、助詞や敬語、それに入試問題の花形とも言うべき識別問題...といった具合に、古典文法の重要知識はほとんど全部網羅してくれているようだ。
ネット書店や、その他のレビューサイトを見ても、大変評判がよろしい。


望月光 古典文法講義の実況中継(1) (実況中継シリーズ)
望月 光
語学春秋社
売り上げランキング: 49,772

望月光 古典文法講義の実況中継(2) (実況中継シリーズ)
望月 光
語学春秋社
売り上げランキング: 26,837


望月光(もちづき・こう)先生。
初めて聞いたお名前だったが、普段は代々木ゼミナールで教えている方のようだ。
おっとりした感じの関西弁(京都弁?)が特徴的で、にこやかでユーモラスな感じの先生らしい。
多分、私たちの世代よりもほんの少しだけ上の方、じゃないかな。



書家としても活躍されている先生。板書の文字が美しい~!

よし。
いっちょ、望月先生に賭けてみるか。
そう決めて、すぐさまこの「実況中継」上・下、加えて望月先生によるもう2冊の教材とを取り寄せたのだった。



「その四」に続く。

2017/01/22

(5時間目の昼寝常習犯)師岡さんと、大人のための古文【再】入門 その弐

その壱 からの続き。)

午後の授業はお得意の野球談議から。
それが、国語科のY口先生のシグネチャースタイルだった。入学以来、3年間ずっとお世話になった。
(もっとも、話の9割は先生が熱烈に愛してやまない横浜大洋ホエールズで占められていた。前日の試合で繰り広げられた数々のドラマ、もしくは「次こそは期待できる」といった応援演説の類に終始。ホエールズ話の合間に、チョコチョコと巨人下げ~⤵の話が入り混じる...というフォーマットは、われわれが卒業するまでずっと変わらなかった。)


温厚なお顔の印象そのまんまのお人柄だったY口先生。
円やかで慈悲深く、生徒達からも大変慕われていた。
あいにく、肝心の授業内容の方はほとんど覚えていない。
文法のプリントをよくもらったような気はするのだが...記憶はそれだけ。


Y口先生、ホントにごめんなさい。
決して悪気があったわけじゃなかったんです。
劣等生は劣等生なりに、先生のことを心憎からず思っていたんですよ。
でなきゃ、30年経った今でも、野球なんて全く興味が無いこの私が、授業の「マクラ」であった大洋ホエールズにまつわるよもやま話なんか覚えていませんって。
先生が、同僚のN倉先生(現代文の先生!)と一緒にお書きになった問題集を、卒業後20年以上経ってからわざわざアメリカから取り寄せるなんて酔狂なこともしませんって。

書き取り・読み方 高校上級用 (1日1題30日完成)
山口健一
日栄社
売り上げランキング: 1,792,306

(絶版になってしまったようだけど、社会人の人でも脳トレ本・教養本として充分使えますよ。
もし手に入るのであれば、おススメ!)

...いつか学年全体の同窓会でお会いする機会があったらY口先生にはきちんと謝らなきゃな、って思う。
そして、30年後の今、はじめて古文の面白さに目覚めて頑張ってます、ってことだけは何としてもお伝えしなければ。
少しは罪滅ぼしができるかな。


それにしても、高校時代ずっと、居眠りにかまけて古文の授業の大半を聞き逃したツケ。
これは実にデカかった。
後からじわりじわりとボディーブローのように効いてきては、私を長年にわたって苦しめることとなる。
(←「ボディーブローのように」。これ、ボクサーでもない自分がよく言うわ、といった感じの陳腐な言い回しだよね。単なる受け売り表現ってことでひとつヨロシク。)


高校3年生の秋。
入試本番がもうすぐそこに迫っているというのに、古文の読解問題では依然としてろくに点が取れないという状態が続いていた。
人一倍鈍い私も、これにはさすがに焦り始めていた。
今思うに、全ての元凶は「頭に貯蔵されている知識の量が圧倒的に不足して、しかもその一つ一つが壊れている」こと。
これに尽きる。
だが、当時はそれが全く見えていなかったのだ。(トホホ...。)


どのようにして毎回テスト問題を解いていたのだろう。
改めて振り返ってみると、こんな感じになるだろうか。


まず、問題用紙が配られると、文章をざっと読む。
そして、比較的自信があった文学史問題だけを一番最初に片付ける。
それから何回か本文に目を走らせながら、何とな~く意味のわかる(と、錯覚していた)単語を拾い出し、文脈にうまく合うような意味(それが正しい訳語かどうかはきわめて怪しい)が浮かび上がって来たら、何とかそれらの訳語をつなぎつつ、文章全体の言わんとしていることを推理してみる。
で、自分なりにどうにかこうにか辻褄を合わせ、「いかにもこうなりそうな」流れを勝手に自分でこしらえ、それでもなおわからない場合は当てずっぽうでも仕方ない、と諦めてとにかく解答欄を埋めていく。


こりゃ、へっぽこ霊能者がやる、的中率の恐ろしく低い「サイキックリーディング」(コールドリーディング?)とどっこいどっこいだわ。
だから、読みが大きく外れ、意地悪だけどもデキる出題者が仕掛けた罠にまんまとはまった時などは、そりゃもう、悲惨。
目も当てられぬほどの結果となって返ってくる。(何度やったかわからない。)


さすがに古文読解問題には通用しないだろーよ、サイキック・マジックは。

そう。
私の場合、頭に入っていて、武器として使える古文知識の絶対量が、何と言っても少なすぎた。
当たり前だ。全然勉強していないんだから。
覚えようと、理解しようと、努力していないんだから。
もし、ごくわずかではあるが、頭に引っ掛かっている単語や文法事項があったとすれば、それは単なる













でしかない。



そうした「点」のような不完全な知識が、ポツン、ポツン...と離れ小島同士のようにただ海面上、つまり意識上に時々顔を出していただけ、だ。
離れ小島と小島をつなぐ「線」など、一切存在しない。
だから、その「線」がいくつもまとまって一つの大きな知識体系(この場合、古典文法)を作り上げ、頭の中にしっかりと根を下ろしてぐんぐん成長していく...
なんてことも100%起こらない。
当然だ。

http://travelingyourdream.com/?page_id=2976

ただテキトーに何の脈絡も無く、ポツンポツンと脳内に置かれているだけの、壊れかけてボロボロな知識の断片。
それを寄せ集めたところで、「使え」るわけがない。
海外旅行用に「一週間で覚える旅行会話・フレーズ」なんてタイトルの本を買って、国際線の飛行機の中で数時間ばかりゴニョゴニョ音読練習したところで、その言語の達人になれるわけがない。
古文読解だって、それと同じだ。



だから、試験にこういう文言が出てくると、当時の私は瞬時にしてフリーズし、頭の中が真っ白になっていたものだ。


...完了の助動詞「たり」の活用の型は、って? 
(ラ行変格活用=ラ変型、です)

...助動詞「べし」の異なる意味・用法って? 
(す・い・か・と・め・て=推量・意志・可能・当然・命令・適当)

...係助詞・副助詞の代表的な例を挙げよ?
(係助詞=は・も・ぞ・こそ・なむ・や・やは・か・かは/副助詞=すら・だに・さへ・し・しも・のみ・ばかり・まで・など)

...この歌で使われている縁語を抜き出せ、って? 
(解答例:「くむ(汲む)」と「石清水」の「清水(しみず)」が縁語関係にある。)



...知らないよっ、そんなの!!!  
ずっと寝てたから、覚えてないんだってば!!!


ごくごく例外的に、

「~ましかば まし」
(意味:もし~だったら、...だろうに。/英語の仮定法に相当する表現。)

なんて、響きの愉快なフレーズが断片的に頭の中に入って来たケースもあったことはあったが(CMの文句と同じで、そういうのだけは即、覚える)、所詮小ネタは小ネタ。得点源にはならない。


もし、タイムマシンがあって、今、高校生だった頃の自分に会えるのであれば、「おぅ、古文舐めんじゃねーよっ!いい加減に気合入れろよ、気合っ!!!」と、凄みをきかせてきつーく叱ってやりたい。
あの頃の自分がいかにたるんでいたかは、英語学習に話を置き換えてみればよくわかる。

【中学1年生程度の貧弱なボキャブラリーしか持たない子。 
 「今度ね、英検準1級受けるんだ。合格すればラッキー☆彡」などとふざけた事をほざいているが、何の準備もしようとしない。】

古文に関して言えば、当時の私はまさにその大胆過ぎて玉砕必至!の中1レベルでずっと足踏みしていた。
まぁ、その後、無事大学に滑り込むことができたのだから結果オーライ、ドンマイ!なんだけどさ...。
喉元過ギレバ熱サヲ忘レル。


あれからほぼ30年。
きみまろ節の「あれから40年。」調で感慨深げに読んでね。)


ある日のこと、こんな年(40代後半)になっても、いまだに
「古文だめなんです。」
「古文は苦手でずっと避けていまして...」
と、ぶざまな言い訳を連発しては、問題から逃げ続けている自分の後ろ向きな生き方に、ほとほと嫌気が差した。
このまま死ぬまで同じセリフを繰り返していくつもりなのか。
そんな自分を情けなく思わないのか。
しばらくの間、自問自答し続けた。


で、遂に決心する。


大人のための古文、【再入門しよう


って。


立ち上がるきっかけをくれたのは、この本だ。

正法眼蔵随聞記 (岩波文庫)
正法眼蔵随聞記 (岩波文庫)
posted with amazlet at 17.01.21
和辻 哲郎
岩波書店
売り上げランキング: 152,491

時は2014年の春。
エイブラハムとかいうイタコ霊言ショーが猛プッシュする『引き寄せの法則』にしても、E.T.に似てなくもないエックハルト・トールとかいうドイツ人が大手メディアと結託して世界的に広めようとしていた『悟り系いまここ』にしても、どいつもこいつも胡散くさい奴ばかり。
もう、現代モノなんて懲り懲りだ。自分の見る目の無さには、それ以上にうんざりだ。」
そんな暗~い、自己嫌悪全開気分の時に偶然出会ったのが、映画「禅 ZEN」だった。


映画「禅 ZEN」特別版DVD
映画「禅 ZEN」特別版DVD
posted with amazlet at 17.01.22
株式会社ジェイライブ (2010-12-01)
売り上げランキング: 34,567


映画を通じて道元禅師さんという素晴らしい霊的指導者の存在を知った私は、もっともっと禅について知りたい、お釈迦様の教えについてもっともっと知りたい!との思いを強くしたのだった。
参考過去記事:画「禅 ZEN」:ただ坐る。ただ生き抜く。】

道元さんご本人の手による「正法眼蔵」の方は相当難解そうで歯が立ちそうにもない。
下の本は電子版で買ったけど、案の定「そのうちね...」のカテゴリへとすぐさま押しやられ、Kindle端末の中で1年以上ほこりをかぶっている。
古文ではなく、れっきとした現代語訳であるにもかかわらず...。

現代文訳 正法眼蔵〈1〉 (河出文庫)
河出書房新社 (2015-01-09)
売り上げランキング: 35,261



昨年末に出たひろさちやさんによるこちらの「NHK・100分de名著」テキスト


道元『正法眼蔵』 2016年11月 (100分 de 名著)

NHK出版 (2016-10-24)
売り上げランキング: 2,904


(親切で良い本だと思いますよ♪)
をざっと一読してみても、その印象は覆らなかった。
ひろさんが穏やかに、優しく嚙み砕いて解説してくれればくれるほど、「...いや、本物はこんなもんじゃないだろうよ。『正法眼蔵』の原文が富士山の頂上だとしたら、この本やテレビ番組で紹介されていることは車で楽々行ける、五合目辺りのパーキングエリアレベルなんじゃないか」と、ひねくれた感想ばかり抱いてしまう。
なので、今はとても「正法眼蔵」に手を出す気になれない。たとえ現代語訳であっても。
まだ機は熟していない、って気がしてならないのだ。



でも、弟子・懐奘(えじょう)の手による、「正法眼蔵随聞記」の方だったら?
師・道元の教えを聞き書きした本、という体裁を取っている。問答形式だ。
こちらなら、ちょっとだけ頑張ればどうにか手が届きそうだ。
この一冊だけはどうしても自力で、原文そのままで読んでみたい!と思ったのである。
鎌倉時代の文章だから、平安期、たとえば「源氏物語」などの文章よりはよっぽど読みやすいけど、それでも「点と点」のお粗末極まりない古典知識しか持ち合わせていない古文劣等生にとっては、かなりのチャレンジだ。


特に、高校生時代にしっかり理解していなかった助動詞「べし」。
この一言が文の中に出てくると、頭の中が途端に全てがフリーズし、思考停止状態になってしまう。
「べからざるなり」なんてつながりが出て来た日には、もう、絶対、ダメ。本を閉じて、逃げたくなってしまうほどだ。
(まぁ、古文だけでは太刀打ちできない部分も多いので、いずれ漢文もざっとおさらいすることになると思う。課題、なかなか減らないな~。)

正法眼蔵随聞記講話 (講談社学術文庫)
鎌田 茂雄
講談社
売り上げランキング: 405,201
一生読み続けていきたい一冊。鎌田先生の謙虚で誠実なお人柄が行間から伝わってきます。



続きは「その参」で。

(5時間目の昼寝常習犯)師岡さんと、大人のための古文【再】入門 その壱

おーーーーっと、気がついたら年が明けて2017年になってしまっていた。

数秘術では、「1」の年となる、2017年。(2+0+1+7=10、1+0=1。)
昨年までのサイクルが一段落し、またゼロから何かが新しくスタートする。この動きは、月を追うごとに活発になっていくはずだ。


新規スタートはどんな現象として現れるのだろう。
正直言って、まだよくわからない。
でも、新学期のクラス替えを目前に控えた時期特有の、ちょっとワクワクした気分を味わっている人がいることも、また事実。(私もその一人。)
悪いことも起こるかもしれないが、うれしいことが起こる可能性だって十分にある。


例の暴言大統領にしても、同じことが言える。
あまり不吉なことばかり予想して、今から勝手に落ち込まない方がいいと思う。
曲がりなりにも、この国の国民のほぼ半数の人が「こっちの方がいい」との結論を下して選んだ候補者である。
納得できない気持ちもわかるが、それでもあの人は多くのアメリカ人が「望んで、願って、引き寄せた」アメリカの代表者なのだ。
最後の最後まで選んだ側の自分たちも、ある程度の責任は取らねばならない。
どのような運命がアメリカという国を待ち構えているとしても、果敢に立ち向かっていくしかないのだ。


天に向かって唾した者は、その唾を顔面で受け止め、あの嫌な感触をも味わねばならない。
それが、アメリカ人の大好きなセリフ・「自己責任で!(At your own risk!)」本来の意味ではなかろうか。
覚悟を決めなきゃね。



とにかく、今、この文章を読んでくださっているみなさんにとって、2017年が記念すべき門出の年として、もしくは人生が上昇へと向かうターニングポイントの年として思い出に残るような1年間となりますように。
お互い、身体に気を付けながら、平穏無事で乗り切っていきましょう。

(いつも読んでくださっているみなさん、本当にありがとうございます。ひとりごとだと自分に言い聞かせてはいますが、やっぱり他の誰かに読んでもらえるのはうれしいものです。)


ここ数週間は大寒波に伴う近来稀にみるドカ雪と、それに続く氷点下10度前後のあり得ない気温とにさんざん振り回されていた。
一人静かにPCの前に座り、ブログを書くようなゆとりなど、とても無かった。
(やっぱり家族が周囲をウロウロしてるとダメなのよ。)


われわれの住む郊外住宅地も、すっかり雪と氷に閉ざされていた。
見慣れた風景が一夜明けたら一面真っ白な世界へと変わり、そしてその状態がいつまでもダラダラと一週間も続いた。
30㎝近く積もった雪のため、大抵の家では車を出すこともできない。
なので、学校は当然休みとなる。
親としては、予告無しに冬休みが突然増量セールされて無理矢理押し付けられたような、そんな理不尽な気分であった。


犬の散歩に行く以外はずっと家にこもりっぱなしで、気が付けば食事の支度ばかりしていた一週間。
先週の半ばには待ちに待ったあたたかい雨がわれわれの地域にもやって来てくれて、雪はようやく視界から姿を消した。
やれやれ。


ただ、今回、思いがけなく手に入ったまとまった時間のおかげで、かねてより少しずつ進めていた

「大人のための古文【再】入門」(※注)プロジェクト

にもじっくりと取り組むことができたのは確か。
籠城状態も、たま~にならば、決して悪くはない。一種のリトリートみたいなもんだから。
ただし、水と電気と食べ物とインターネット接続がしっかりと確保できているならば、という条件付きだけど。

(ああ、ワガママだな~。これだから現代人の甘ちゃんは...。)


(※注:今更説明するのも野暮なんですが、これは言うまでもなく、映画「シーモアさんと、大人のための人生入門」のパクリフレーズです。詳しくは前回前々回の過去記事をご参照ください。
ただ今、渋谷UPLINK他、全国各地のミニシアター系映画館で大好評上映中。見逃した方、もう一度見たい方には、1月26日から始まるUPLINK Cloud~オンラインの映画館~での上映がありますよー。) 


まず最初に、タイトル中の「5時間目の昼寝常習犯」とは何ぞや、というところから説明しなくては。
(まぁ、かつて高校生という身分を体験したことのある人であれば、大体のところは察していただけるとは思うけど。)


これは、今から30年以上も前の話だ。
地元ではちょっとした進学校として知られるA高校に晴れて入学した私。
だが、浮かれ気分もほんの束の間、入学して一ヶ月もしないうちに私は大きな壁にぶつかってしまった。
私が毎晩長時間かけて悪戦苦闘しなきゃいけない、そしてそこまでしてもなお、解き方が全然わからないような数学の宿題を、何の苦労もなく短時間でスイスイ片付けていくような秀才君・秀才ちゃんが、この学校には掃いて捨てるほど(...いや失礼、捨てちゃだめだよね)、た~くさんいたのである。
圧倒的な才能の差を見せつけられた私は、「完敗...」と潔く白旗を掲げるしかなかった。
それからしばらくの間、成績は「中の下から下」のあたりを低迷し続ける。


理数系へと進むのはもはや不可能とわかったので、卒業後に目指すべき方向は自然と固まった。
文系に行くしかない。
文系学科・学部にしても、二次試験で数学を課すようなところ(経済学部とか)は逆立ちしたって絶対無理。最初っから候補には入れない。
試験科目が文系科目(英・国・社)だけで済むようなところへ行くしかなかろう...という結論に至った。


中学からずっと洋楽を聴いてきたので、英語は文句無しに大好き。これは問題無し。
歴史も世界史だったら(ベルばらファンなので)得点源にできる。昔から暗記は得意だし。



残るは、国語ただ一つ。

【うーん...。
得意なんだか、不得意なんだか、自分でもよくわからない...。
ええいっ、多分何とかなるって!
だって文系人間だもん。
国語が苦手なわけないじゃん。
最後の最後にちょっと手入れすれば、どうにかなるさ!】


この行き過ぎたポジティブ思考(と、お粗末極まりない現実分析能力)、今振り返ってみると相当恥ずかしい、と思う。
よくあそこまでおめでたく生きていられたもんだ。
若いってすばらしい。(アハハハ...☆)


苦手な国語については長いこと何の対策も講じることも出来ずにいたが、秋も深まって来た頃、運良く代ゼミの名物講師・田村秀行氏による「田村の現代文」シリーズを発見。土壇場で滑り込みセーフ、である。
田村先生のおかげで現代文だけは辛うじて平均点以上をキープできるようになった。


新・田村の現代文講義―代々木ゼミ方式 (1) 評論〔基本問題〕篇
田村 秀行
代々木ライブラリー
売り上げランキング: 18,698
(我々の時代には「新」なんてついていなかったぞ。さてはバージョンアップしたな、おぬし。)

だが、古文・漢文の方はもう、お手上げ。最後の最後まで惨憺たる状態であった。
あまりにも不得意過ぎたもんで、最終的に受験した4大学5学科のうち3枠を「古文・漢文を出題しない」学校、つまり、国語の試験は現代文のみ、という学校でがっちり固める奇策を使う羽目となった。


何でそこまで私の古文力はメタメタになってしまったのだろう。
どうも、高校入学後のある時期を境にして

「古文の時間 イコール お昼寝タイム」

という図式がしっかりと身体にインプットされてしまったから、らしい。


当時、クラス一の大食い女子だった私(運動部にも入っていないくせにさ...。)にとって、弁当を食べ終えた後の5時間目の授業は、睡魔との闘いが繰り広げられる、ある種の「トワイライト・ゾーン」でしかなかった。
校内の自動販売機にコーヒー牛乳はあるものの、カフェインがギンギンに入った大人っぽい味のコーヒー・紅茶の類は、一切無し。
みんな大好き♡なコーヒー牛乳だけれども、眠気覚ましに使いたい人にとっては、何のありがたみも薬効も無い。
授業時間中は一切外出禁止、という校則があるため、たとえ昼休み中でも外の自販機に缶コーヒーを買いに行くことは不可能だった。
なので、睡魔からの攻撃にはただひたすら耐え抜くよりほかなかったのだ。


...もしくは、おとなしく睡魔に屈服してしまう、か。


先生が板書するのをノートにふるえた筆致で書き写そう(後から読み返しても何を書いたのかちっともわからない。)と試みてはみるものの、また睡魔に襲われ、いつしか机の上へと突っ伏す。
ひょっとしたら、いびきの一つや二つぐらいはかいていたかもしれない。(ちなみに我が校は共学である。)


突然、はっ!と目覚めの瞬間が訪れた時には「あ、私、眠ったりしてませんから!」と、教壇の上の先生にアピールするかの如く無理やり身体を起こし、黒板方向をじっと見つめ、熱心に授業を聞いているようなふりをする。
で、しばらくの後、また意識が遠のき、ゆったりゆったり、舟漕ぎが始まる、と...


よくもまぁ、毎日性懲りも無くこんなことばかり繰り返していたもんだ。
呆れる。


何の因果かは知らないが、うちのクラスの時間割は、なぜか午後イチで古文が入る、という日が多かったように思う。
担当するのは、横浜大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)の熱狂的なファンだった(いや、現在もきっとそう。)Y口先生。


中・高校生だった頃、毎週月曜夜にTVK(テレビ神奈川)で見ていた洋楽情報番組・ファンキートマト(略称・ファントマ)。番組が終わると、数分以内に必ず流れたのが大洋ホエールズの球団CMでした。「♪行くぞ大洋 行くぞ大洋 行くぞ大洋 Go Go Go Go!!! ど~ろにまみれ~て~ す~べり~こ~み~...」の部分はしっかり脳内に刻まれました。

「いや~、昨日の齊藤(明雄選手。当時は「ヒゲの斉藤」として有名)のピッチングは最高に良かったですねー。巨人打線がコテンパンにやられて、もう、痛快で痛快で...!(以下略)」


といった、お馴染みの大洋アゲ⤴アゲ⤴=巨人サゲ⤵ネタでひとしきりハッハッハ( ̄∇ ̄;)とみんなを気持ち良く笑わせてくれる、とっても楽しい先生なのだ。
で、巨人ファンの生徒も負けじとしっかりツッコミ入れたり、当時絶頂期を迎えていた阪神ファンも先生のアンチ巨人発言に加勢してみたり...と、クラス内の雰囲気はたちまち和やかになる。
そんなゆる~いやり取りを聞きながらリラックスするうちに、いつしかまぶたは重く、身体は前のめりに、意識がもうろうとなり...


ってなわけで、またしてもお昼寝タイムへと滑り落ちてしまうのであった。
腹満ち足りた後の、日当たりの良いあたたかな教室でむさぼる、午後イチの惰眠。
あの心地良さは経験した者にしか理解できないだろう。
(いい子ちゃん・モテ子ちゃん・まじめ子ちゃんとして人生を送ってきた人には、まず通じない話だと思う。)


♪あったかいんだからぁ~ (←古っ)



「そんなに眠くなるなら、昼ご飯の量をセーブすればいいじゃないか」と思うのは、大人になって、ある程度食と体調との相関関係が理解できるようになった今だからこそ。
でも、あの頃はそうも簡単に割り切れない、貧乏高校生なりの複雑な事情が居眠りの背後にいろいろとあったのだ。


当時、親からもらう小遣いは月当たり4-5000円ほどだったように思う。
それでも、「これだけは絶対欲しい!」というレコードや雑誌の購入を最優先してしまうと、大した額は残らない。だから、常に金欠でピーピーしていた。
(一応進学校だったので、勉強についていくのが大変だったため、バイトなどはとても考えられなかった。)


慢性金欠高校生であった私が当時何よりも恐れていたこと、それは
「空腹」
「飢餓状態」
に陥って苦しむこと、だった。
今でもその恐怖は自分の中に根強く残っているように思う。
出されたら出されただけペロッと平らげてしまう。
困ったことに、胃腸は丈夫なのでそれでトラブルが起こったりすることは滅多に無い。
さすがに最近では医者に「あなた、このままだとまずいわよっ」とお小言をちょうだいしたので、かなりセーブして腹八分目でストップできるようになったけど。
(これ、飢餓状態で死んでいった過去世の名残かなんかなんだろうな。多分、すぐ前の前世だと思う。)


なので、放課後にお腹が空くと、このような「貧乏学生の救世主」である王道駄菓子のみなさんにどうしても頼らざるを得なくなる。
1つあたり10円か20円だったからね。


やおきん うまい棒 たこ焼味 6g×30袋
やおきん
売り上げランキング: 3,003

菓道 キャベツ太郎 14g×30袋
菓道
売り上げランキング: 1,063

格安スナック菓子にはどれだけお世話になったかわかりません。
「100円でこんなに買えるよ!!!」なんて言いながら、嬉々として毎日新聞部の部室で山のように食べまくっていた私。ドアホ。


伝説の激安炭酸飲料・チェリオ。
1985年前後のお値段は1本60円。
私らの頃はネジ式ではなく、王冠タイプのキャップだった。
うちの学校の校門すぐ脇の店の前に自販機があったので、
毎日舌をカラフルに染めるツワモノ生徒も珍しくなかった。

画像はhttp://blog-imgs-21.fc2.com/h/e/n/henyacyoko/CHERIO_001_R.jpgさんのものをお借りしました。Thanks!

とにかく、自分としては、夕方ラッシュ時の混んだ小田急線の電車で、空腹のあまり気持ち悪くなる、なんてことだけは死んでも避けたかった。(空きっ腹だと乗り物酔いしやすい体質なんですよ、昔から。)
だったら、昼ご飯はしっかりと食べておかなくっちゃ。
そのためには、古文の授業には多少犠牲になってもらうことも止むを得ないか、と...。
今考えても、切ないんだか、アホなんだか、自分でもよくわからない屁理屈である。


昼休みを終えた生徒たちが気持ちよく授業に入れるように、とY口先生が毎回してくれていた野球トーク(ほとんどは大洋ホエールズ話)だが、私には少々効き過ぎて、気分良くなり過ぎてしまったようだ。
ありゃ絶対に催眠術並みの効き目だったよ。Y口先生、美声過ぎです。
(Y先生の名誉のために急いで付け加えるが、授業の最初から最後まで居眠りせずに起きていた日だってあった。落第することなく、無事に卒業できたのが何よりの証拠。)


(以下、「その弐」へと続く。)