2017/06/16

みんなでつなぐ、映画愛(秋田県大館市)

(初出・2016年6月@Google+の文章に、加筆・修正。)


こういう心あたたまる話、大好き。

手書きラベルのVHSテープ(800本!)を大事に保管しているような正真正銘の映画好きだった館長さん。
そんな方だからこそ、映画の神様や映画好きだった あの世の住人達に見込まれて、「ひとつ、御成座を頼むぞ!」っていうミッション託されちゃったんだろうな。


ボランティアの手による手描き看板(しかも、今時ジャッキー・チェンだよ!懐かしすぎる!)や、良心的な料金での舞台レンタル。
エピソードの一つ一つから、地元・秋田の映画ファンがどれほど熱烈に「御成座を存続させたい!」と願っているかが、記事を読むこちら側にもひしひしと伝わってきた。


御成座というクラシカルな名前も、品の良さが漂っていてすてきだ。カタカナ固有名詞全盛の時代に昔ながらの屋号を大切に守っているオーナーさんたちの心意気もいいよね。
歴史への敬意が感じられる。


御成座のように「映画好きの人が純粋に映画を楽しむために建てられて、そして長年愛されている小さな街の名画座」は、消えて欲しくないなあ。
そういう劇場に集う客は、大型シネコンを好む客層とは明らかに異なっているだろうから。その人達の「オアシス」をこれ以上減らさないで欲しい。


いや、別に大型シネコンが悪いって言ってるわけじゃないですよ。
きれいだし、涼しいし(もっぱら行くのは里帰り中の真夏なので)、買い物も一緒に済ませることができて便利だし、良いところもいっぱいある。それは百も承知です。
広くてきれいなトイレは小さい子連れには何と言ってもありがたい。


ただ、あの工業製品っぽい無機質さを感じさせるような「箱モノ」的(ドコイッテモオンナジ...)な作り。
電光掲示板の表記一つで、一つの部屋がハリウッド超大作のドドーン!ガガーン!の空間から、マイナーなヨーロッパ系映画の、味わい深い人間ドラマの世界へと早変わりする...という、あの節操の無さ。
上映終わったら余韻になんて浸ってないでとっとと出てけ、って感じのせわしなさ。
(←これは何も大型シネコンに限ったことではないけれど。)
ああいうのは何度行っても好きになれない。


「映画という商品を観させられています」感が強くって、自分がその世界に入り込むっていう感覚が味わいにくいんだよね、シネコンって。
観客と言うよりは、消費者。
あくまでも受け身に、商品を受け取るだけの消費者。

そのような環境では、

「いつか自分も作る側の人間になりたい!」

って創造欲求にもなかなか火がつかないんじゃなかろうか。
そりゃそうだ。
あんな無機質な空間にいては、「銀幕の向こうの人々」の息遣いとか、人間臭さとか、「映画」を「名画」のレベルへと押し上げてくれる、魔法のスパイスみたいな要素がこれっぽっちも感じられないからね。


映画製作を本気でやりたいのであれば、手作り感満載の小さな名画座にせっせと通うのが一番の早道なんじゃないかな、と、思う。
映画のためだけに存在する建物へと足を運び、映画を愛してやまない人々のエネルギーに囲まれながら、ドキドキ、ワクワク心躍るような密な時間を過ごす。


で、ダイハードな映画ファン・映画通の人々が口を揃えて「これだけは外すな!」と太鼓判押してるような古今東西の名作を片っ端から見て、目を肥やす。「どのような作品が『不朽の名作』と呼ばれるようになるのか」を、自分自身の目で確かめて、そして自分なりの法則を導き出す。

100本の凡作を漫然と見るよりも、1本の大傑作を何度も何度も、それこそしゃぶり尽くすかのように見倒す。


こういうのって、若いうちにしかできない最高の贅沢、だよね。
お金は無いけど、時間だけはたっぷりある、という人生の早い時期にしかできない贅沢。
しないよりは、しておいた方がいい。絶対に。
そうした「仕込み」をするかしないかで、人生後半以降の充実度が絶対違ってくるから。
人間の深みというか、面白さというか、そういうものは年取ってから急に出そう、と思ったところで、そう易々とは手に入らないものなのだ。


そういえば、名画「ニューシネマパラダイス」の主人公で、後に有名映画監督になる夢をかなえたトト少年は、故郷・シチリアの小さな村・ジャンカルドの映画館(兼・教会)にしじゅう入り浸っては名画のセリフを丸ごと暗記していたっけ。

(予告編見ただけでボロボロ泣けてしまう映画。
一生かけたって、そうたくさんは巡り会えるもんじゃない。
あ、私も大勢の皆様同様、最初に公開された「ショートバージョン」が断然好き。
初めての方はぜひ、ぜひ、上映時間123分の廉価版↓↓↓をどうぞ!)



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秋田県大館市とその周辺地域にとっての「新天国座」(「ニューシネマパラダイス」を直訳!)的存在である御成座、これからもずっとがんばってほしいな。
無理の無い範囲で細々と、末永く続けてもらいたいもんだ。
次代のクリエイター予備軍を育てていくためにも。


【秋田県大館市の御成座・公式HP】http://onariza.oodate.or.jp/