野口整体の創始者であり、天才的なヒーラーであった野口晴哉(はるちか)氏(1911−1976)。
その著書「健康生活の原理」の中に興味深い一節を見つけました。
【野口晴哉公式サイト:
http://noguchi-haruchika.com/home.html 】
「また足を組んでいる人があります。右足を左足に乗せている人は、普段動作する時に無意識に右足に力が入ってしまう傾向のある人です。それを休めるために、弛(ゆる)めるために足を組むのです。重心側をいつでも上に乗せる。
だからこういう無意動作といったものは、偶然に生ずるものではなく、体の平衡を保とうとする要求の現れなのです。」
(「健康生活の原理 活元運動のすすめ」野口晴哉、全生社、1976、p.162)
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この野口説、正しいと思います。
6、7年前のこと。
右の足首を捻(ひね)る、くじく、という厄介な癖に悩まされた時期がありました。
以後、細々とヨガを練習し続けてきた甲斐あって、現在ではほぼ完治しています。
ただ、今でも秋から冬にかけての湿っぽい寒い日になると、古傷のようにシクシクと痛むことがあります。
おそらくは低気圧の接近と関係がある...のかな。
ちなみに、回復に最も役立ったものは?と聞かれれば、即、ヨガの「三角のポーズ/ウティタトリコナーサナ!」と答えます。
ただし、アイアンガーヨガが指導しているやり方で、という条件付きで。
このポーズ、基本中の基本ですよね。(下の動画参照)どんな教室でも必ず教わる、お馴染みのアーサナ(ポーズ)です。
ちょっとでも無理をすると右足首に痛みが走った当時の私。
先生が注意深く見守る中、一つ一つの動きを分解し、時にはヨガブロックなどの小道具(プロップス)も使い、じっくりと正しい型を作り上げていく。
スピードに走ることなく、丁寧さと正確さとを重んじるアイアンガースタイルのヨガは、ダンスっぽい動きや、心拍数上がりーの系の動きが苦手な私とは相性抜群でした。
実際の教室でも、下の動画の先生とと全く同じような教え方をしています。
アイアンガーヨガの有資格者ならではの美しいポーズにぜひご注目ください。
(実に厳しいんですよ、アイアンガーヨガの指導員資格取得までの道のりって。どこかの芸能人が取ったという「ヨガ講師資格」と一緒にしちゃいけません。)
【旧・楽天ブログ】アイアンガー教室に通っていた頃に書いたある日の日記。
2011.05.20 「さらば!なんちゃってヨガ」
http://plaza.rakuten.co.jp/backtotheessence/diary/201105200000/
...今はアイアンガーではなく、ヴィニヨガviniyogaという別流派の先生のクラスを受けています。呼吸法や瞑想を重視し、個々人の体に応じたヨガをオーダーメイドで作っていく、そんなヨガです。 ようやく自分の理想に近い流派にたどり着いた、ってところでしょうか。
もし、これからヨガを基本から学んでみたいのであれば、アイアンガーヨガから入るのが非常におススメです。基本の型をしっかりと教わることができますから。
...ただ、私の場合、近くにいる生徒さんとペアになって手つないだり背中押したり、といったスタイルの練習を毎回繰り返すのが苦痛でした。あの、ペアになっての練習さえ無ければ、恐らく今でもアイアンガーヨガを続けていただろうな、と思います。
(「二人組での練習は原則的にやらない」という点も、ヴィニヨガが自分にしっくり来る理由の一つかもしれません。)
ソウソウ。ソレグライ、 イヤダッタンダヨ...。
B.K.S.アイアンガー
医道の日本社
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(おぉ、遂に日本語版出ましたか!写真の美しさに定評のあるDK社発行の、例の分厚い図解本が。)
たまたま今日、上で引用した野口先生の文章に出会いまして。
あの頃の右足首の状態について、いろいろと考えさせられました。
そもそも、右側の足首ばかり捻るようになったのは、一体なぜなんだろう、って。
いつも決まって右足でした。
左足をくじいたり、ひねったりした事なんて、覚えている限りでは一度も無かったはずです。
あなただったら、「せーの!」と歩き始める時、先に踏み出す足は右ですか。それとも左ですか。
ほとんどの人が、毎回同じ側の足を先に動かし始めるそうです。
利き手があるのと同じように、「利き足」もある、と言えますね。
右利きの人の場合、私と同じようにまず、右足をヨイショと前に突き出す、という方が大多数でしょう。
普通は、踏み出す足 イコール 力をぐぐっと入れる足...となるはずです。
事故や怪我は、決まってボーッとしている時、何か考え事をしている時に起こります。
グッと力を入れて足を前に踏み出したその瞬間、着地した地面の状態が悪かったことに気付かず(窪みがあった、小石が置いてあった、目立たない段差があった...等々。)、右足首はそこで「ぐぎっ」と変な方向に捻れてしまい...。
毎回、そのパターンだったような気がします。
私の場合、捻ったりくじいたりするのが「癖になった」のではありませんでした。
野口先生の説を受け入れるならば、無意識のうちに「右足に力を入れるという癖」がついていた、と言うべきなんです。
で、怪我というわかりやすい形を取ることによって、体の方が必死に「このままじゃまずいよ!」と叫んでは、意識の改革をするように促していた...。
なるほど。そういうことだったのですね。
【右足を自然と左足の上に持っていくのは、右足を少しでも休ませるため。】
いや〜、この説、非常に納得行きます。
無意識にやってしまう「なくて七癖」のような動作にさえも、体からのメッセージが隠されていたとは。
右足にばっかり力入れるのはもう止めてくれ! 疲れてるんだよ! って、体が叫んでいたんですね。
私の場合、バッグ類(しかも、相当重い。)を常に左肩に掛けているのも、体の平衡を崩す原因となっていたかもしれません。
どうしても左側に重心が傾くから、右足の方もついつい頑張って力を入れ過ぎてしまう...と。
何はともあれ、健康にまさる宝はありません。
体を壊したくないのであれば、多少の格好悪さは我慢して、リュック/バックパック生活に徹するよう、自分を調教していくしかないのでしょう。
これ、ちょっと気になっています...。
ささっ、「健康生活の原理」に話を戻しましょう。
上で私が体験したような「へ〜そうなんだ〜。」という気付きが欲しい!という方ならば、きっと楽しんで読んでいただける一冊です。お値段も税込みで540円と実にお手頃ですしね。
(Amazonでは古書としての取り扱いしか無く、しかもとんでもない価格設定になっています。少々手間はかかりますが、版元の全生社から直接お求めになるのがよろしいかと思います。
http://www.zensei.co.jp/books/store )
そういえば、野口晴哉さんの本については、旧・楽天ブログ時代にも一度書きました。
2014.02.21愉快な「体癖」探し。
http://plaza.rakuten.co.jp/backtotheessence/diary/201402210000/?scid=we_blg_pc_lastctgy_2_title
野口整体理論の中で最初にそそられたのは、やはり「体癖」でした...。
性格タイプの学・エニアグラム(
詳しくは過去記事をご参照ください)、西洋・東洋占星術など、とにかく「性格分類」に関わるものには昔から目が無いもので...。
野口 晴哉
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私達が西洋医学から多大なる恩恵を受けていることは、否定しようのない事実です。
西洋医学はこれからもずっと、私達の健康を管理する上で中心的な役割を果たしていくことでしょう。
でも、21世紀になった今、人々は「他に何かいいものがあるんじゃないか?」と、更なるオプションを積極的に探し始めています。
心と身体の関係(ヨガや座禅、瞑想なども含みます)や、エネルギー/波動医学といった、従来の西洋医学の枠には収まりきれない分野への関心も、ますます高まる一方です。
いわゆる「代替医療」(alternative medicine)と呼ばれる分野、ですね。
野口整体も、広い意味でのエネルギー/波動医学なわけですから、代替医療の一手法に含めていいでしょう。
筆者は2年前の夏に2回だけ、野口先生の最後の直弟子のおばあさま整体師(天谷保子先生...残念ながら昨年秋に逝去されたそうです。ご冥福をお祈り申し上げます。)に施術していただく機会に恵まれました。長年天谷先生のところに通っていた知人からの紹介で。
天谷保子
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(「いやいやえん」の「はるのはるこ先生」のモデルとなった方、と言った方が通りがいいのかな?実は私、この本を読んだことがないので話の中身は知らないんです...。)
どのくらいの部分が天谷先生独自の技術で、どのくらいの部分が純粋に「野口整体」の教えから来る技術だったのか。
そこのところは、よくわかりません。
でも、天谷先生が「ここ、痛いでしょ?」と優しくおっしゃりながら、私の頭頂部の右下にあるツボをググッと押された時(ほんとに痛かった...)、
「うわっ、この先生、エネルギーの流れを指先で読んでいるっ!」
と、確信しましたね。
(あれは多分、足少陽胆経の「正営」というツボではなかったかな...。)
たった2回の野口整体体験で、知ったかぶりして偉そうに語るつもりは毛頭ありません。
そんなのおこがましすぎます。
でも、今、日本の民間療法で「エネルギー/波動医学」がどのような形で普及しているのかが少しでも見ることができましたので、私にとってその2回は非常に価値ある体験となりました。当時御年86歳だった(はず)の先生の、職業人としての立派な生き方にも良い刺激を受けましたした。本物の「はるのはるこ先生」、とても素敵なおばあさまでしたよ。
(本当は継続して診ていただければ良かったのですが、何せ、当方、海外暮らしなもので...。仕方ありません。)
世の中の「常識」や「メインストリーム(主流派)」が、必ずしも正しいとは限らない。
だから、いろいろな方法や道具を実際に体験し、本当に自分に合うもの・効くものを探り当てたい。別に従来の医学の枠に収まらなくっても気にならない。いいものはいいし、「効く」ものは効く。そういった療法や薬をぜひ自分の身体で試してみたい...。
偏見を抱くことなく、良い考え・良い治療者ならばとにかく取り入れてみたい!新しい可能性に賭けてみたい!と願うような人であれば、野口晴哉さんの著作を読んできっと何かしら「その通り!」と共鳴できる部分が見つかることと思います。
もう一箇所だけ、「健康生活の原理」からの引用を。
「不摂生も必要
人間の体にとっては、良いもの、悪いものという区分はないのです。
ヒ素だって梅毒を治すでしょう。毒も薬として使えるのです。薬は毒だから薬として効くのです。田の草を取ってそのまま肥(こや)しにするように、毒も薬も同じものなのです。それを良いと悪いとに、はっきり分けてしまえば、何も出来なくなる。
摂生する専門になったら、体は壊れてしまいます。
(中略)
不摂生が完璧になくなると、
体の中にある丈夫であろうとする努力も
なくなるのです。」
(前掲書、pp.61-62、強調は筆者)
「毒も薬として使える」という部分、ホメオパシーの基本思想にも通じますよね。
野口先生が生前、ホメオパシーをご存知だったかどうかはわかりませんが。ま、ホメオパシーについてはそのうち機会を設けて触れたいと思っています。効きますよ。私自身は大いに頼りにしています。
【参考】帯津三敬塾クリニックHPより「ホメオパシーとは」 http://www.obitsu.com/services/homeopathy.html
考えてもみてくださいな。
夜の暗闇が無く、100%明るい昼間が延々と続くような場所。
悪が完全に駆逐され、100%善なるもので成り立っている社会。
俗っぽい部分をきれいに取り除き、100%清らかで、聖なるものだけ残した文化。
嫌いな人を一人残らず抹殺し、100%自分にとって都合の良い、好きな人だけで固めた集団。
どれもこれも、完全に
「あり得ない」ものばかり、でしょう?
100%の完璧。100%の良い状態。それが固定したまんま続くなんて、あるわけがない。
求めたって、無駄なんです。
(100%ポジティブでハッピーな気分でいれば、幸運が訪れる...なんて、そんな単純な図式で片付けられるはずがないわけで。
...昔、それに類するお気楽お花畑な「引き寄せ」本を真剣に読んでいた自分。あー情けない。)
多少の不摂生、つまり負の要素にも、私達が今、手にしている物をより「丈夫にする」という、立派なお役目がある。
だから、摂生することばかりが善であると信じるあまり、不摂生をまるで親の仇のように敵視し、完全に生活圏内から排除するような真似はしない方が良い...と。
野口先生は読者にそうアドバイスします。
先生の言葉を拡大解釈すれば、こんなことだって言えてしまうかもしれませんよ。
人間社会に悪があるからこそ、「どうやったら善をより強力にできるか?」と、知恵を働かせる。
俗っぽいものが巷に溢れているからこそ、聖なるもの・清らかなるものは一層光り輝き、際立って見える。
どうしても好きになれない人がいる。そこで「なぜ自分はあの人が気に食わないのか?」と自問するからこそ、自分の中の闇部分(シャドウ)の存在に気付き、悔い改めることができる...。
どんな場面や状況であっても、立派に当てはまりますね、これ。
いやはや。
ふと気まぐれで手にした小冊子に、このように鋭い世界の読み取り方・生きていく上でのアドバイスまでもが詰まっていたとは、予想だにしませんでした。これで税込み540円は激安。
深すぎます。
野口晴哉さんの本では、こちらもおススメです。
野口 晴哉
筑摩書房
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大意を要約しますと、
「『めったに風邪は引かないんだ』なんて自慢している輩に限って、知らず知らずのうちに体に負担をかけているのに、それに気付くかない。で、ある日、疲れがピークに達した時、いきなり大病という形でドカンと倒れる。
だから、普段からよく風邪を引いて、こまめに体をリセットしておくのが良い。」
私の中の「風邪観」を180度変えてしまった一冊です。
最近は、「んー?かかったかも...」という時には、「おー、鼻水に、咳か。よしよし。早い段階で表に出てきてくれて嬉しいよ!」という反応が自然に出るようになりました。
そして、奥様の野口昭子さんによる、こちらの随想集。
一読すれば、野口夫妻にお目にかかってみたかったなぁ、と思わずにはいられなくなります。
野口 昭子
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「"ショパンは私に抱かれて死んだ"という女が、二十九人もいたんだって...」
「ほんと?」
「女の見栄って、凄まじいんだなー」
「じゃあ、二十八人は嘘をついていたということかな」
すると、先生[注:野口晴哉氏]が言う。
「いや、二十九人とも嘘さ。若(も)しも、ほんとうにショパンが抱かれて死んだ女がいたとしたら、その女は、人に吹聴したりしないさ。」
(p.212)
ヒーラーとしては天才的な能力の持ち主、と言われた野口先生。
その能力は、人間という生き物の在り方をとことん観察し続けた末に、ごく自然に生じてきたものだったに違いありません。
...と書いた途端、本書の中に全く同じ趣旨の文章を発見してしまいました。あれまあ。
(...)私の知識は五十何年、一つ処へ坐りこんで、来る人の体を丁寧に観察し、その裡にある勢いと、その勢いのもたらす体の変化だけを一人一人、調べ考えてきただけなのです。
(前掲書、p. 9)
野口晴哉という稀代の治療者。
やはり、凡人の理解を大きく超えたすごいお人だったようです。